以前から小説を書いてみたいと思っていました。でもそう簡単に始められることではありません。
最近とある研修の講師として「皆さん、新しい行動を実行に移して下さいね!」と耳にタコができるほど繰り返すことがありました。で、これを言っていて「そういう自分も新しい行動を開始せねば」と思うようになり・・・。その大物が小説というわけです。
本当は恋愛小説みたいなのを書きたかったのですが、ビジネス書っぽい理屈が混じったものとなってしまいました。未来SFという意味では、星新一さん的な内容とも言えます。まあデビュー作だから多めにみてやって下さい。とにかく初めて書いたことに意味があると思っています。
↓ご興味のある方はこちら。約2600文字です。
↓タイトル:「画期的な法律」
【プロローグ】
「良いですか。 大事なポイントを繰り返しますよ!」
2008年の6月。梅雨のじめじめした雰囲気が加速されるかのような暗い部屋。ざあますメガネをかけた人事部のお局が叫ぶのを庄司要はうんざりした気分で聞いていた。正直言うとハナクソでもほじりながらこの苦痛の1時間を乗り切りたいことろだ。が、転職したばかりの会社でコンプライアンス説明セッションを受けろと言われては神妙なふりを装うしかない。
「あなたがどのような意図で女性社員に対応したかはセクシャルハラスメントの判定に一切関係ありません。女性側が性的な意味で不愉快に感じたら、それが即セクハラなのです。」
そんなことは庄司はとっくに知っていた。しかし延々と続く演説に嫌気がさしてきたところなので、ちょっかいを出してみたくなったのだ。
「でも、例えば高い業績をあげた女性社員を褒めたたえる意味で、肩をポンと叩くぐらいは良いのですよね。」
お局は鬼の首でもとったかのように勝ち誇って叫びだした。
「あなたはMBAとかご立派な資格を持っておられるようだけど、根本的な理解力に問題があるわね。仮にあなたが性的な下心を持っていようと、純粋に部下を誉める気持ちを持っていようと、それは関係ありません。相手の女子社員が不愉快に思えば、それだけでセクハラが成立するのよ。事前配布した「改正男女雇用機会均等法」や「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上配慮すべき事項についての指針(平成10年3月13日労働省告示第20号)」をしっかり読みなおしておくこと。でないと当社の管理職としては失格ですよ!」
【2018年】
それから10年後の2018年6月。庄司要は東京拘置所にいた。「今度ばかりは実刑判決かもな・・・。」とため息をつく庄司。セクシャルハラスメントが罪状というわけではない。あれから10年間の間に様々な法律が改正され、その1つに触れてしまったのである。
今回の逮捕のきっかけは電車で老人に席を譲ろうとしたことだった。虫の居所が悪かったのか、相手の老人がプンプンと怒り出したのである。「ワシはそこまで老けておらん。バカにするな!」と。駅の事務所に連れて行かれた庄司は何が起きているのかわからないまま弁明した。「私は善意でご老人に席を譲ろうとしたのです。老人をバカにしてなんかいません。」と。
駅長は冷たい目で庄司を見下ろした。「あなたは改正老人保護法の施行を知らないのですか? あなたがどのような意図であろうとも、相手の老人が不愉快に思ったらそれが即犯罪なのです。これはセクハラ防止のための画期的なコンセプトを多方面に適用して出来た法律の一つですよ。」
庄司が実刑を覚悟していたのはこの種の法律違反での逮捕がもう3度目だからである。1度目は新宿駅で段ボールの家に住んでいる男を哀れんでお金をあげたら「オレは乞食じゃない!」と怒られた件。路上生活者保護法違反。2度目は道路で転んだ子供を抱き上げたら「誰か来て。子供が誘拐される!」と母親に叫ばれた件。誘拐防止法違反。そして今度が3回目。
いずれも法律違反の基本的構造は同じである。庄司が善意で行ったとしてもそれは関係ない。相手が不快に思った時点で犯罪が成立してしまったのである。
【2028年】
C国から発射された核ミサイルにより東京は消滅した。この小説の主人公であったはずの庄司要の肉体も一瞬にして蒸発した。きっかけはC国で起きた大地震である。何万人もの人たちが瓦礫の下敷きになり救出を待つ状態。日本の自衛隊は人道的見地から救助に出向いたのである。ところがそれを快く思わない人たちがC国にいた。日本による過去の侵略行為を思い出し、救出作業にかこつけて再度侵略行為を行うための下見に来ているのではないかと解釈したのである。日本の侵略行為に対して正当防衛を行うべしという機運がC国で高まり、それが東京に向けた核ミサイル発射に結びついたのである。
国際的世論は日本に同情的であるものの、面と向かってC国を批判する国は皆無であった。実は1年前の2027年に国際法が改正されたのである。法改正のポイントは1つの国が別の国に対して犯罪行為を行ったかの判定根拠である。A国がB国に対して何かの行為を行った場合、A国の意図は全く有罪性の判定に利用されない。B国がその行為に対してどう感じたかのみが、A国が行ったことが合法か違法かの分かれ目になるのである。今回は日本がいくら人道支援だと言っても、またそれが事実であろうとも関係無かったのである。C国が「日本の行為が侵略の下見である」と感じた以上、日本は国際法上の犯罪を犯したのであり、核による報復を受けても仕方がなかったのだ。
【2038年】
アンドロメダ星人が発射した四次元重力波により地球は消滅した。その際の地球代表政府とアンドロメダ星人のやり取りは以下のようなものであった。
「君たち地球人と地球は、この宇宙から消えて貰う。なぜなら君たちは他の星系を侵略しようとしたからだ。証拠はこのディスクに記録されている君たちからのモールス信号だ。『コノウチュウゼンタイハ、ワレワレチキュウジンノモノダ』と翻訳された」
「それは誤解です。翻訳機が故障しているのです。確かに我々は未だ見ぬ地球外生命に対してメッセージを発信しました。しかしそれは友好目的のみであり、侵略なんてとんでもない!」
「君たち地球人は昨年に改正された宇宙法を知らないのかね。それぞれの星の生命体同士のやりとりは、あくまで受け手の解釈が優先されることになったのだよ。我々アンドロメダ星人が侵略だと解釈する以上、それに対抗して地球を消滅させることは宇宙法上合法なのだ。」
「正直言うとこの宇宙法は君たち地球人のセクシャルハラスメント防止の法律から学んだものなのだ。この考え方は極めて画期的な2つのポイントを持っている。まずは今までの複雑な法体系をゼロリセットし、事実上の無法状態を創り出す効果があるという点だ。受け手がそう思ったという点のみが根拠になるわけで、あらゆる合理的根拠を無視することが出来る点が素晴らしい。2つ目のポイントも優れている。これは強者のための法律だという点だ。この世は本来は弱肉強食の世界だ。それが各星の法律や宇宙法でがんじがらめになってしまっていた。それをもう一度古き良き時代に戻すには、強者の主観に全権限を与えることが必要だったのだ。」
「地球の諸君。素敵なヒントをありがとう。」「そして、さようなら。」
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